『倫!・・・だめだ!あの男はだめだ!絶対に!!』

突然頭にキヨの言葉が蘇る。
キヨちゃん・・・キヨちゃん・・・!!
どうして?どうしてなの!?

倫にとって、キヨはこれ以上にない大切な存在だ。誰よりも大切に思っている。

しかし、今目の前で倫を抱きしめ、好きだと告白した薫のことを、自分も苦しい程好きだということも事実だった。

倫はもはや自分で自分の気持ちを持て余し、どうしたらいいのかわからなかった。

「ごめん・・・私・・・。ごめん!」

腕に力を込めて、薫の体から離れて言った。

「倫ちゃん・・・」

倫は薫を振り返らず、その場から逃げるようにして走っていった。

手のひらに薫の胸板の感触が、首筋には薫のごつごつした指の感触が、唇には薫の冷たい唇の感触が、そして耳には薫の切なげな声がはっきりと残っている。

それら全てを振り払うように倫は頭を振った。