「私・・・遠慮しとく。」
「どうして?本当に気軽に参加してもらっていいんだ。会わせたい人ってのは祖父の知り合いの人で、昔NASAでシャトルの開発に携わってた人なんだ。会って損はないと思うんだよ。」

倫はまたしても’餌’をちらつかされて心が揺れた。薫は倫の興味を引くポイントを完全に掌握していた。

「でも・・・服もないし・・・。」

「なんだ、そんなこと気にしてたの?気になるなら、俺からプレゼントするよ。」

倫は高校生からパーティドレスをプレゼントされるわけにはいかないと思い、
慌てて断った。

「い、いいよ、いらない。」

「自宅に届けるよ。服のサイズ教えて。」

薫は倫の断りを無視して言った。

家に届けるという言葉に倫はドキッとした。

キヨちゃんがいるのにとんでもない!

「やめて!わかった、服は圭ちゃんに借りるから。家に来るのは本当にやめて。」

「・・・了解。じゃあ、来週の土曜日に迎えをよこすよ。俺は家で接待しなきゃいけないから迎えにはいけないけど。」

倫はわかったと言って電話を切った。

それで最後にしよう。その時に本を持っていって返せばいいのだ。

日頃お世話になっている圭子にも、これで借りが返せるし・・・と言い聞かせた。

心の片隅にある、薫に会いたいという気持ちには気がつかないふりをした。