「すごい良かったぁ!私、あんなに大きな望遠鏡で星見たの初めて!」

倫は興奮して頬を紅潮させていた。

「ミザールとアルコル、寄り添ってて、なんか良かったね。」

嬉しそうな倫を見て、薫は微笑んだ。

「アラビアでは昔視力検査で使われてたって言ってたね。素敵な視力検査よね。」
「和名で’四十ぐれ’とも呼ばれてたんだよ。40歳超えるとあの星が見えにくくなるってことだね。」

倫はへーと言い、それじゃあキヨちゃんなんてとっくに見えてないってことになるわね、と小さく笑った。
車が倫の家の近くで止まる。二人の間に離れがたい空気が流れる。

「じゃあ・・・今日はありがとう。楽しかった。」

倫は薫の黒く光る瞳を見つめた。吸い込まれそうで、胸がどきどきする。

「俺も楽しかった。倫ちゃんといると、時間を忘れる。」

私も、と言いそうになったが、寸前のところで止めた。
倫は黙って車を降りて家に向かおうとした。

「待って、これ、俺の連絡先。」

薫が車から降りて、倫に名刺を渡した。
高校生で名刺を持ってるなんて・・・と思ったが、倫は黙って受け取った。

「連絡・・・待ってるから」

薫が倫の瞳をまっすぐ見つめて言った。

(どうしよう・・・私・・・)

その時突然声が響いた。

「おや、倫じゃないか」

振り向くと、そこにはキヨとキヨの男友達の勇じいさんが立っていた。

「キヨちゃん・・・」

倫は突然のキヨの登場にはっとした。

「勇じいさんとカラオケ行ってきたんだよ。だめだね、この人はへたくそで。」
「おいおい、キヨさんが行きたいって言うから行ってやったのに。ひでえや。」

倫は薫が何も言わずに去ってくれることを祈ったが、それは無駄だった。

「こんばんは。倫さんのお祖母さまですか。」

キヨはまじまじと薫の顔を見上げて言った。

「なんだい、えらく男前だねえ、あんた。倫の男かい?」
「キヨちゃん!そんなんじゃないよ!」倫は慌てて言った。