「でもなあ・・・私、苦手なんだよなあ・・・」

倫は迷った。

圭子がしているバイトはパーティーコンパニオンといって、宴会の席でおじさまたちにお酌をしたり話したりする、いわば出張ホステスのようなものだった。

3回ほど、時給の高さにやってみたものの、倫はそういった接客の仕事はどうも苦手だった。

圭子はただ話してればいいだけよ、というのだが、
倫には話のネタを探したり、顔を引きつらせて笑ったりするのが苦痛なのである。

「でも、290円でどうやって過ごすのよ。
今日終わったらすぐもらえるんだよ?
しかも、今日はすごいセレブのパーティーだって
いうから、おやじばかりでもないし、
ひょっとしたらセレブのイケメンと出会える
かもよ」

倫はセレブのイケメンには全く魅力を感じなかったが、もしかしたら料理の残りなんかをもって帰れるかもしれない。
以前、まったく手をつけなかった高級弁当を持ち帰らせてもらったからだ。

倫はもう一度290円を見つめた。
背に腹は変えられない。

「やろうかな・・・今日だけ」

圭子は自分で誘っておきながら驚いた顔をした。

「あ、本当にやる?じゃあ、会社に電話入れていおいてあげるよ。
人数足りなくて困ってたみたいだから、喜ぶよー。」

早速電話をしている圭子を見て、やっぱりやめようかなと諦めかけたが、キヨちゃんにおいしいもの食べさせてあげたいと思い、覚悟を決めた。