ラブ・スーパーノヴァ

「小山田?聞いてるか?」

倫はハッとして、はあ・・・と間抜けな返事をした。

戦中の日本の部隊が行っていた人体実験の統計ファイルが九条の家にあると言ったら、嵐山は目を充血させて興奮し、奪いに行くにちがいないと思った。

「あいつ、やっぱりすごい奴だったんだ・・・」

倫はコーヒーが入っている紙コップを眺めた。そんな倫を見つめて嵐山が言った。

「なんだ・・・お前、あのガキに惚れてんのか」

倫は突然言われて驚きを隠せず、うろたえた。

「ち、違います!そんなすごいバックグラウンドの人間と知り合ったことないからびっくりしてるんです。第一、出会ったばかりで良くしらないし、相手は高校生ですよ。」

嵐山はにやりと笑った。

「そうか、お前、科学バカで男なんて興味ないかと思ってたけど、いっちょまえに恋愛したりすんだなあ。」
「違うって言ってるじゃないですか!」

倫はむきになって反論した。

「そうムキになるなって。まあな、あの容姿で頭もずば抜けて良いとなったら誰でも惚れんだろ。女はああいう王子様みたいなやつが好きだからなぁ。」

倫はひどくバカにされた気がして口を噤んだ。

「お前なあ、歳とか家柄とか気にしてんじゃねーぞ。そんなものは惚れちまったら関係ないんだ。『恋に狂うとは言葉が重複している。恋とはすでに狂気なのだ。』」

嵐山はハイネの格言を諳んじた。

まさかまだ出会ったばかりの高校生に自分が恋をするわけない・・・。しかし、気になっているのは確かだ。
嵐山は言いたいことだけ言って、実験室に戻っていった。

恋とはすでに狂気なのだ、か。。

倫は今まで何人かの男とつきあってきたが、どれも狂おしいほど恋したことなどなかった。全くピンとこない。

しかし、倫はもうすぐそれを身にしみて感じる時がくるのだが、この時は考えもしなかったのである。