ラブ・スーパーノヴァ

そうしているうちに、タクシーが加納邸に到着した。
小さな灯りが一つあるだけで、辺りは真っ暗だった。
笹が擦れ合う音がサラサラと流れる。

倫はとうとうこの時が来たのだと、顔を強張らせた。
薫が倫の手を取り、二人で見つめ合う。

(大丈夫・・・一人じゃないんだから・・・)

倫はそう言い聞かせ、深呼吸した。
門をくぐり、竹林を抜けると、暗闇の中にぼんやりと家の灯りが見えた。
玄関の扉は既に開かれており、磯井という男がそこに立って二人を待っていた。

「いらっしゃいませ。薫様」

薫は黙って玄関の中に入る。倫もそれに続いた。

「こちらです。暗いですので、お足元にご注意ください」

家の中は異常なほど暗かった。
足元どころか近くを歩く薫の姿もなんとなくしか見えない。
長い廊下を歩き、何度も左に曲がったり、右に曲がったりしてようやく一つの扉の前で止まった。おそらく一人では玄関に戻ることは出来ないだろうと倫は思った。

「奥様、薫様がお見えです」

かすかに、入りなさいという声が聞こえた。
倫は緊張で喉がカラカラに渇き、全身に力が入っていた。

磯井が扉を開けた。

部屋の中は廊下にくらべたらまだ少し明るかったが、それでもどんな部屋なのか知るには時間がかかった。

20畳程の広さの部屋には大きな机が中央に置かれており、その向こう側に一人の老婆が椅子に座っていた。
サングラスをかけて、大きなスカーフを頭からかぶっており、部屋が暗いのもあって表情は全くわからなかった。

ただ、髪の色、曲がった背骨、顔のしわで彼女がかなり年齢を重ねてきていることは察することができた。

「大おば様、薫です。突然お邪魔して申し訳ありません」

薫は少し大きな声で挨拶をした。
倫も何か挨拶した方がいいと思いながらも、緊張で全く声が出ない。

磯井が政子の側に移動し、薫と倫は大きな机を挟んで政子と対面するように並んで立った。

「この間来たばかりで・・・忙しいこと・・・」

政子はゆっくりと聞き取りにくい、こもった声で話した。