「俺がアメリカに行かないのは、倫ちゃんと一緒にいたいから。それだけだ。だからこの話は終わり。Q.E.D.だ」
薫はきっぱりとそう言うと倫の手を引いて歩き出す。
「糺の森の神様は、あなたの訴えをどう裁くかしら」
倫はため息をつきながら言った。
「『お前の訴えは正しい』って聞こえたよ」
薫が冗談で返す。
「・・・ずいぶんあなたにとって都合の良い神様ね」
「そういうもんさ。ほら、あの木。ここは縁結びでも有名なんだよ」
そう言って倫を赤い柵に囲まれている木がある場所まで連れていった。
柵の中には二本の木がぴったりと寄り添うように立っていた。
「この木は『連理の賢木』といって、縁結びの神が二本の木を途中から一つに結んだといわれているんだ。不思議なことに、木が枯れると糺の森の中で同じように結ばれている木が見つかるんだって。この木は四代目」
別々に生えている二本の木が途中でぴったりとくっついている様を見て、倫は微笑んだ。本当に木同士が恋をして、寄り添っているかのようだった。
人々がこのような自然現象を不思議に感じ、ありがたく思う気持ちは今も昔も変らないのだなと思った。

