倫は緑の木々の間から差し込む日の光を眩しそうに目を細めて見つめた。
薫も森を見つめている。
その美しい横顔に視線を移し、倫は薫を見つめた。

「・・・アメリカの大学のことだけど、やっぱりあなたは行くべきだわ」

倫はずっと気になっていたことを切り出した。
薫が優しく微笑む。

「そのことは、もう行かないって決めたから」
「だめよ!ずっと行きたかったんでしょう?憧れてる教授がいるって・・・」
「樫野が君にそのことを言ったんだろうけど、あいつが大袈裟になってるだけなんだ。もともと日本の大学も受けるつもりでいたし、どちらでもいいっていうのが正直なところだよ」

薫は何てことないといった風に言った。
倫はどうしても納得がいかなかった。

「でも・・・私がいなかったら、行くはずだったじゃない」
「君がいなかったらなんて、想像しただけでも胸が張り裂けそうだ」
「ねえ、お願い。真面目に話してるのよ」
「真面目だよ」

薫が力強く言った。

「・・・君がいない場所で生きていくことなんて、もう考えられない」

薫の黒い瞳がまっすぐに倫を見つめる。
想いの強さに倫は息を呑んだ。

「それに・・・こんなこと言ったら不安にさせるだけだから、言いたくなかったけど・・・」

薫はためらいがちに言った。

「・・・何?」