「そういえば・・・これ以外にも日記がないか調べた時に、一つ気になったものが見つかったんだ」
「気になったもの?」

薫が鞄から1冊の本を取り出した。
『星座と神話』というタイトルの本だった。

薫があるページを開いて見せてくれた。
双子座のページだった。

その余白部分に短く何か書かれていた。

「Gemini・・・ジェミニ?双子座のこと?」
「うん。ここに書いてあるのはラテン語だから『ゲミニ』って読むのが正解」
「ラテン語?英語でもこういう風に書くわよね。何でラテン語だってわかるの?」
「Geminiの後ろに『io』という字があるだろ?これはラテン語で感情が高まった時なんかに発せられる言葉なんだ。感嘆符(!)はこのioを組み合わせてできたっていわれてる」
薫の言うように、Geminiの少し後ろにioと書かれている。

「でも・・・なんでこれが気になったの?」
「他の本にもラテン語のメモしている箇所は沢山あったけど、『io』なんて使っているのはここだけだった。文字も乱れて力がこもってる。まさに感情が昂ぶって思わず書いたって感じだからさ」

確かに、日記に書かれている周一郎の字は丁寧で、綺麗な文字だった。
それと比べると、書きなぐったように荒い文字だった。

「祖父は10月生まれだから双子座じゃないし・・・。君も違うよね」
「うん。私は牡牛座」
「まぁ、少し気になったというだけで、深い意味はないかもしれない。念のために持ってきてみたけど、役に立たないかもしれない」

そう言って本を鞄に戻した。

(双子座・・・。お母さんも双子座じゃないし・・・)

倫は双子座にまつわる人を頭の中で探してみたが、なにも思い当たることはなかった。

『まもなく、京都です。東海道線、山陰線・・・』

車内アナウンスが流れ、二人とも降りる支度を始める。

(とうとう京都まで来たんだ・・・)

倫が表情を強張らせるのに気付いた薫が繋いだ手に少し力を入れる。
顔を見ると、薫の瞳が「大丈夫」と伝えていた。
倫は無言で頷き、二人は新幹線を降りた。