薫の瞳をまっすぐに見つめて倫は言った。
薫も真剣な眼差しで倫を見つめ返す。

周一郎のこと、九条の家のこと・・・。本当は知らないままやり過ごしてしまいたい。
しかし、目の前の薫の強い眼差しから感じる自分への愛情が倫を突き動かしたのだった。
「でも・・・いつ行くの?」

薫が優しく微笑む。

「俺はいつでもいいよ。倫ちゃんのお祖母さんの具合が良くなってからにしよう」

キヨのことを気遣ってくれる優しさに倫は胸を熱くした。

「・・・ありがとう」

薫が微笑んで倫の手の甲を親指で優しく撫でた。
途端に二人の間に流れる空気が変る。甘い匂いが漂ってきそうなほどであった。

そっと手の甲に薫が唇を当てる。
倫の胸がドキドキと高鳴り、手を伝って薫にバレてしまうのではないかと思わせた。

「祖父の姉は・・・俺は大おば様って呼んでるんだけど、今は夜にしか人に会わないんだ。だから、日帰りはちょっと難しいと思う。泊まりになるけどいい?」

倫は泊まりという言葉に少し躊躇する。友達と旅行に行くのとは訳が違う。
キヨには当然嘘をつかなくてはいけない。
倫は葛藤したが、ここで迷っていては先に進めないと思い「大丈夫」と答えた。

「泊まるところだけど」
「・・・・え?」
「一緒の部屋でいいね?」

薫の瞳が妖しげに光る。
倫の心臓がドクンと鳴った。

「な・・・何言ってんの!!だめ!!それはだめ!!」

倫は顔を真っ赤にして薫から手を離そうとするが、薫はしっかりと掴んで離さない。