薫は焦れているのだ。倫にも自分と同じように、何もかも捨ててでも一緒になりたいと言ってほしいのだ。
薫の気持ちは痛いほどわかる。それでも倫は自分の中にある不安をぬぐい切れない。キヨとの生活が崩れるかと思うと、胸が張り裂けそうだった。

混乱と不安でいっぱいになり、倫は耐え切れず涙ぐんだ。

「ごめんなさい・・・。でも、私・・・やっぱり怖くて・・・」

倫が震える声で言うと、薫はハッとして手で目を覆うとゆっくりと息を吐いた。

「ごめん・・・。君に俺の気持ちを押し付けた・・・」

薫は自分を落ち着かせようと身を屈め、しばらく手で顔を覆って黙っていた。

そんな薫を見て、倫はいつの間にか薫に’強さ’を勝手に求め、頼っていたことを痛感した。
薫なら何か良い方向に導いてくれるに違いないと、どこかでそんな風に思っていた。

大人びて見えても、薫はまだ高校生なのだ。
自分のためにこんなにも必死になってくれて、自分の将来をも犠牲にしようとしている。
(違う・・・。二人のことなんだから、二人で一緒に解決していかなきゃいけないんだ・・・)

諦められないのは倫も一緒だ。一週間連絡が取れなくて、どれだけ寂しく、辛く、会いたいと恋焦がれていたことか。

思いを伝え合った今、二人で前に進むしかないのだ。

倫は少しためらいがちに、薫の体をそっと抱きしめた。
わずかに薫の体が震える。

「・・・私達二人のことだもんね。一緒に・・・解決策見つけなきゃ」

薫が倫の腕を取り、体を起こした。

「倫ちゃん・・・」
「あなたと一緒に京都行くことにする」