「この日記を読んで、あの部屋の全ての本の巻末を確認したんだ。でもそれ以外に日記として書いてあるものは見つからなかった」

倫は驚いて薫を見つめた。
あの膨大な量の本を全て一人で確認するなんて、相当時間がかかる作業だ。
想像以上に大変だったはずだ。
それで倫に連絡ができないでいたのだということがわかった。

「もし、これが本当のことだったら・・・」
「九条家は’直系不在’の、欺瞞一族ってことさ」
「直系不在って・・・」

日記には幸子から倫を奪おうとする様子が伺える。
周一郎は幸子を愛していたのではなかったのか・・・。ただ単に子孫が欲しかっただけなのだろうか・・・。

倫の心に周一郎への疑惑の想いが芽生えた。

「一体・・・どういう・・・」

倫は困惑して右手で額を抑えた。
薫が空いている方の手を握る。

「倫ちゃん、俺と一緒に京都に行かない?」
「・・・え?」

薫の突然の申し出に倫は面食らった。

「京都にその日記に出てくる祖父の姉がいる。だいぶ歳はとってるけど、まだ生きてるんだ」
「・・・会いにいくの?・・・会いに行ってどうするの?」
「真相を聞くまでさ」

薫は不敵な笑みを浮かべて言った。
倫は驚いて薫の手を思わず握り返した。