倫はショックだった。
薫が自分のために進路を変えようとしているだなんて・・・。

「あなたの言いたいことはわかった・・・。私からも言ってみる」

樫野はホッとした表情をして宜しくお願いしますと頭を下げた。

「でも・・・良かったです。薫の想いが叶って」

樫野は倫が薫を受け入れたことを本当に喜んでいるようだった。

(自分の好きな人の幸せを喜べるなんて・・・この子、偉いなあ・・・)

倫はあのまま薫を拒絶するのが、結果的には薫にとって一番幸せなことだったのではと思う気持ちがまだあった。

それができなかった倫は、樫野の薫への献身的な行動にただただ感嘆し、自分の未熟さを浮き彫りにされた気がした。

とにかく薫に会って話さなくては。自分のために大事な進路まで変えることはない。
樫野と別れたあと、倫はすぐに薫に連絡した。

「もしもし?」

薫はすぐ出た。電話越しに周りのざわついた音が聞こえる。どうやら外らしかった。

「あの、私だけど・・・」
「ごめん、翻訳まだできてないんだ」
「ううん、それはいいの。ちょっと、会って話したいことがあって・・・」

その時アナウンスが聞こえた。

『のぞみ・・・号新大阪行きです』

新幹線の出発のアナウンスだった。