倫は照れて、そう・・・と言ってうつむいた。
二人が頼んだランチが運ばれる。

「小山田さん、今日はお願いにきたんです」
「・・・お願い?」

樫野がじっと倫を見つめる。その眼差しは切羽詰っているようだった。

「・・・あいつ、急に進路を変えるって言い出したんです。知ってますか?」
「進路を変える?」

倫の反応に、樫野はやっぱりといった風に頷いた。

「もともとアメリカの工科大学に行くって言ってたんです。それが急に日本の大学にするって言い出して」

倫は最初、樫野の言っている意味が良く理解できないでいた。

「もうすぐ試験が始まるんです。でも、もう受けないって言ってるんです。どうしてだって聞いても『決めた』の一点張りで・・・。あなたのことが関係してるんじゃないでしょうか」

倫はそんなこと全く知らなかった。そもそも薫がアメリカの大学を受験すること自体知らなかったのだ。

『何があったって君を守る覚悟はできてる』

倫は薫の言葉を思い出していた。
薫は倫のためにアメリカ行きをやめて、倫の側にいることを選んだのだ。

樫野が黙ったままの倫を見つめる。

「・・・お願いというのは、そのことなんです。薫にアメリカ行きを諦めさせないで欲しいんです」
「私・・・」
「二人の仲を裂こうと思ってこんなこと言ってるんじゃないんです。あいつの才能を潰したくない。ただそれだけなんです。

その大学には薫が慕っている教授がいて、そこに行くのを目標にしてたんです。僕はずっとその姿を見てきた。それを急に辞めるなんて・・・」