倫は、これから自分達はどうなるんだろうと思った。
薫は諦めるつもりはないと言った。
しかし、血の繋がりを無かったことにはできない。周りの人々も賛成するはずがなかった。

「ちょうどいい。俺の髪も乾かしてよ」

倫はハッとして振り向いた。
女物の浴衣を着た薫が立っていた。湯上りで頬や耳がピンクに染まり、上半身はゆるく羽織っていたので、鎖骨と胸板が見えるのが妙に色っぽく、倫はドキドキした。

「う、うん・・・じゃあ、ここ座って」

倫は膝立ちになって薫の背後から薫の髪を乾かした。
黒く艶のある綺麗な髪。
白く美しいうなじが間近に見え、倫はどぎまぎして必要以上に手を動かした。

「あの本・・・」

薫が倫が先ほどまで読んでいた周一郎の本に気がついた。

倫はドライヤーのスイッチをオフにし、本を手に取って薫に渡した。

「あなたの伯父さまが持って行っていいって言ってくれたからいただいたの」

薫がパラパラと本を捲る。
巻末のメモに気がつき、手を止めた。

「それ、何て書いてあるのかしら。ドイツ語っぽいから全然わからなくて」