「あと290円・・・」

小山田倫は手のひらの上にある小銭を見つめてため息をついた。

「今月は教科書も買ったしなぁ・・・」
次のバイト代が入るまでまだ1週間もある。

「倫、どうしたの??」
友人の浜西圭子が学食のサンプルを見てうなだれている倫を見つけて声をかけた。

「圭ちゃん・・・」

圭子は倫の手のひらを見てははあ、なるほどねといった顔をした。

「お金、厳しいんだ。また。」
「またって言わないで。。」

圭子はよしよし、じゃあ、おごってあげようと言って、一番安いざるそばをおごってくれた。ざるそば190円。

学食ののびきった蕎麦でも、倫にはご馳走だった。

「ありがとう!圭ちゃん!私の天使!」
「んふふ。いいよいいよ。昨日、バイト代けっこうもらえたから。」

倫の動きがぴくりと止まった。

「いくらもらえたの・・・?」

圭子がカフェオレを飲みながら、横目でちらりと倫の顔を見て言った。

「1万2千円。延長あったから合計3時間だけど。」

倫は持っていた箸を落としそうになった。

「さ、3時間で1万2千円!??」
「そうだよー。あ、今日もこれからバイトあるんだけど、倫も来たら?」

倫は唸った。3時間で1万2千円・・・。
倫が普段している居酒屋のバイトは時給1000円だ。
単純計算で4倍の時給である。