学園(序)

「そうアルか」

イカランチを食べ終わっていた地獄の主が手を伸ばし、イクラ丼を掻っ攫って食い荒らす。

「か、か」

イクラ丼にはもれなくアレがついてきていたのに。

「か?」

「間接キッスがああ!」

「不埒な!」

横からは天帝の掌底がわき腹に突き刺さっていた。

「アビバ!」

俺の幸せな夢、破れたり。

でも、間接キスなどどうでもよく、純粋にイクラ丼だけが食べたかったのだ。

「うう、イクラ丼」

ベッドに横たわりながらも、涙で椅子を濡らしていた。

「ぎ、吟、そなたが要らぬ事をするから、丞が大変な目に遭ったではないか!」

「龍、それは言い訳がましいアル。それと、ゴチになりますアル」

礼儀とかどうでもいいしよお。

「すまぬ。そなたがそんなにイクラ丼を食べたいとは思うてなかった。ワラワが油断した責任じゃ」

龍先輩が唇を噛締めて、少し陰の入った顔で自分の未熟さを実感し始めていた。

わき腹と、昨日の衝撃の痛みを我慢しながらも俺は座りなおす。

「何言ってるんですか。元々、イクラ丼は先輩のでしょ?卑しさと厭らしさを出した俺が悪いんです!先輩が反省する点などどこにもありません!」

「ワラワは間接キスという言葉ぐらいで動揺を隠せなかった、自分の小ささに悔いなければならぬ」

マイナスイオンが出るならいいんだけど、マイナス思考しか出てこねえよ。

「ひゅーひゅー」

イクラ丼を食べ終えた、吟ネエが茶化してくる。

「あはははは!いいねえ!青春だねえ!ホラ!抱きしめちゃえって!」

笹原先輩、今さっき俺の言った事を聞いてましたか?

「おー、最近の学生は元気だな」

「ええ」

見知らぬ人にまで茶化されるとは思って見なかったが、顔を向けて見ると実は知っている人であった。