学園(序)

モヤモヤしたものを背負いながら、乾の後にファミレス『ビッグMAMA』に入った。

でも、悟られるのも嫌なので、いつもと変わらないヘラついた顔に戻しておく。

「遅かったのう」

怪訝そうな顔をしている龍先輩。

この人は鋭いからな。

でも、鋭いと思って気をつけると、逆に墓穴を掘るんだよな。

「ショップにちょっと格好いいものがあると思いましてね、悩んでたんですよ」

「そなたは何もつけぬと思っておったがな」

「俺だって若者ですよ?小物ぐらいは持っておきたいですよ」

龍先輩は何も頼んでなくて水しかなかったが、吟ネエと笹原先輩の前にはイカランチ×2を頼んで先に食べていた。

俺は礼儀にうるさくはないが、少しは龍先輩の爪の垢を飲んで欲しいものだ。

でも、朝からイカランチと言い、今まで我慢していたんだから、俺のせいで遅くなるのも可哀想な話である。

「先輩、すいません。待たせましたね」

「気にするでない。ワラワもまだ決めておらぬ」

きっぱりと物事を決める先輩が優柔不断なことをするはずがない。

俺と先輩がメニューを広げて見る。

ちなみに席は、龍先輩と俺、正面に吟ネエと笹原先輩、乾は別の席でコーヒーだけを飲んでいた。

俺の財布の中身から考えると、あまり高い物は頼めない。

腹は減っているけど、安い物で我慢するしかないか。

「先輩、決まりました?」

少しだけ時間をかけてから先輩に問いかけてみると、うむと頷いた。

店員を呼んで、俺は450円の鮭定食を頼む。

先輩が頼んだのは、1000円の大盛りイクラ丼だった。

他のファミレスは少しサイズが小さいのだが、『ビッグMAMA』のイクラ丼は某牛丼店の大盛りを二倍にした大きさだ。

小さい身体でよく食べるなと思って見ていると、目が合って少し顔を紅くする。

「こ、これくらい食わねば背が伸びぬ」

背の事は勿論あるんだろうけど、言い方からして怪しい。

実際は、それくらいが腹八分目だろう。