他人の記憶を読み取る、それはマーキスが編み出した術の一つでもあった。
相手の生死にかかわらず、その記憶を読み取ることができた。
相手の額に自分の額を重ね、そこから記憶を直接引き出す。
一見簡単なようだが、実はすごく難しいものだった。
自らは突然流れ込んでくる相手の記憶に、相手は無理矢理引き出される自分の記憶に、激しい頭痛を伴う。
もちろん、この術を使えるのもマーキスだけであった。
しかし、いくら数え切れぬ程の戦場を経験したマーキスでさえ、この術はまだ数回しか使ったことが無い。
マーキスは深呼吸をした。
そして、そっと慎の額に自分の額をつけた。
その接点に術を集中させる。
じんわりとそこが暖かくなってくる。
もやが晴れて、序々に頭がはっきりしてきた。
慎の記憶に辿り着いたのだ。
そこから必要な記憶だけ取り出す。
他人の記憶を無闇に覗き見てはならない、とマーキスは考えている。

