聖職者


「凛、いい子だ」

リョウが凛の耳元で囁く。

「凛!!何してるの!早くそいつから離れなさい!」

マーキスが叫ぶ。

だが、凛はリョウから離れようとはしなかった。

いや、離れられなかった、と言うべきか。

リョウから離れないといけない、と頭ではわかっている。

だが、離れたいと思わないのだ。

それは恋慕からくるものなのか、ヴォルドールに対する恐怖からなのか、はたまた、リョウに対する恐怖なのか。

答えはどれでもなかった。

リョウに抱き締められた瞬間、妙な懐かしさを覚えたのだ。

この感じ、前にもあった。

あれは、いつの頃だろう。

このまま、ずっとこうしていたい。

離れたら、もう二度と会えない。

そんな気持ちが凛を支配していた。

そんなありえない安堵感のおかげで、凛は体の震えがおさまっているのを感じた。