聖職者


「…気付かなかったとはな」

凛は呟き、自嘲気味に笑った。

狼達は凛と数メートルの距離を保つと、足を止めた。

全部で八体。

倒せない数ではない、と凛は思う。

ただし、それは狼達が魔獣でなかったらの話だ。

魔獣であれば、凛にとって負け戦になることは必至だった。

いくら相手が弱いとは言え、一対八はさすがに分が悪るすぎる。

凛はそっと刀の柄に手を掛けた。

相手が襲ってきた場合に備えて、だ。

決して自ら切ってかかる訳じゃない。

だが、凛はその手をすぐに離すことになる。

なぜなら、凛の目の前の狼が一匹だけ凛に近付き、頭を下げたからだ。

これにはさすがに凛も驚いた。

その狼が頭を下げると、周りで凛を囲む狼達も頭を下げた。