この森に名前などない。
昔から「この辺りの森」と言えば、この森しかなかった。
普段からあまり人が入らないのに、狼達の暴走のおかげでさらに人が入らず、ここ数か月は凛のみが入場者だろう。
一本だったはずの道はしだいにその形をなくし、凛は森の奥へと進むのに苦労した。
垂れ下がっているつるを避け、木の根で異様に盛り上がった地面に足を取られないように気を付ける。
獣道もいいところだ。
それに、だんだんと疲れてくる。
そのせいか、凛は気付かなかった。
凛はふと足を止める。
気が付けば周りを狼達に囲まれていた。
今はまだ大分遠くに、まるで凛を中心にして円を描くかのようにいる狼達は、じりじりと近付き、その円を小さくしていく。

