その頃、当の凛はと言うと、まだ森には着いていなかった。
ただ、例の森に到着する手前ではあった。
大きな窓からはのどかな牧草地帯と山々しか見えない、とてもローカルな汽車に揺られていた。
がたんごとん、と古びた車輪の振動が規則的に響く。
乗り合わせている人も少なく、凛がいる車両には炭鉱の作業着の様なものを着た男、仲むつまじい老夫婦、はしゃぐ子供を連れた母親しかいなかった。
やがて、黒い煙を吐き出す汽車は速度を落としだす。
目的地の駅に着いたのだ。
がたんっ、と一度大きな振動がしたかと思うと汽車は止まる。
凛は手動式の扉を開き、汽車を降りた。
西欧では見慣れない鞘に入れられた刀を手に、パタパタと音を立ててまるで蝙の様な機械を連れた、艶やかな長い黒髪をもつ15歳の少女を、周囲の人が珍しげに見たのは言うまでもない。

