聖職者


「凛さん、思い出せないことがあるんですね」

医療班長は優しい声音で凛に尋ねた。

凛はそれにうなずく。

「どこから思い出せませんか?」

「えっと、マーキスと任務に行ったところまでは覚えてます。でも何の任務だったか分からなくて…」

「他には?」

「気付いたら医務室のベッドにいました」

「どんな感じに思い出せないんです?」

その質問に凛は少し考えたようだった。

「何て言うか…、思い出そうとすると頭が痛くなるんです」

「…なるほど」

医療班長は凛の症状が何であるかすぐに分かった。

記憶喪失である。

それも、ショックが強すぎてその記憶を自ら封印してしまうタイプだった。

記憶喪失の中で一番質が悪い。