恋愛射程距離


「ちょっとトイレに行ってくるね」

シンと静まり返った部屋の空気に耐えられず、私はゆっくりと立ち上がった。

「はい」

縦に頷いて、風子は再び雑誌を手に取った。
パタリとドアを閉めて、私は静かに息を吐いた。

「うーん…」

何かが変だ。
明確な答えはでないけど、とにかく変。

「愛って、何よ?」

多分それは好き以上の気持ち。
だったらその気持ちはどこから生まれるの?
目が合ったら?
手をつないだら?
キスをしたら?
セックスをしたら?

階段を一歩一歩下りながら、私は答えを見つけようとするけど、やっぱりわからない。

「もうどれも経験済みだし」

でも、私が経験していないことが1つだけ。

(結婚)

「結こ…」

(あーもう。何で愛について真剣に考えなきゃいけんのだ!しかも1人で)

少し馬鹿らしくなって、また1つ息を吐いた。

「トイレトイレ」

そもそも風子はどうしてあんなことを言い出したのか。
普段は恋愛話なんてこっちから無理にでも振らないとしないような子が、突然あんなこと。

ズキリ。ズキリ。また左胸が痛む。

「お菓子もなくなりそうだったから、ついでに持っていこ」


(部屋に戻ったら、普段の風子に戻ってるといいけどな)