恋もよう


「…こっち。」

「え?…ぅわっ」

隣に立つ光の腕を引っ張ると、ドアの前に立たせて、自分とドアの間に挟む。
一瞬驚いた顔をして見上げてきた光だったが、次の瞬間、

「…ありがとうございます。」

ほっとしたように、柔らかな笑顔を浮かべる光。
カバンを前に抱き締めてはいるが、何せ混み合う車両内。
触れ合う場所から伝わる微かな体温に、とくりと心臓が違う跳ね方をする。

ふわりと小さな彼女から香る甘い匂い。

飴かガムか噛んでいるからかと、いつも思っていたが、そうではないらしい。
香水か?とぼんやり頭の中で考えているうちに、光の最寄りの駅へと電車は辿り着く。