「何で真也に言わないんだ!」
「あの子は私達のせいで苦労してるのよ!これ以上、苦しめる訳にはいかないの。何で分からないの?」
「あいつはもう、理解できる年だ!」
「嫌!どうしても言いたいなら別れて!…私は一人で死ぬから。」
「別れたと真也には言う、だから最後まで傍に居させてくれ。」
母さんを抱きしめる親父の目には大粒の涙が浮かんでた。
その時、自分の部屋からでてきた俺は親父の声を振り切って外へと出て行った。
「何で止めてやれなかったんだろ。クソっ!」
「あなたのせいじゃないわ。思春期だものちょっと道に迷ってるだけ…よ…」
「おい!由香理(ゆかり)!由香理ぃぃ!」
救急車が到着した時にはすでに息をひきとった後だった。
俺はここに来るまで知らなかった。
いや、知ろうとしなかっただけだ。

その日の夕方、フラフラと帰ってきた俺に親父はこういった。
「高校はお婆ちゃん家から通うんだろ?もう、中学校へは話したから入学式までお婆ちゃん家に居なさい。私はやらなくてはならない事ができた。これだけあれば行けるだろ?」
一万円札を五枚受け取り、何も持たずに家を飛び出した。