町の片隅で~ファーストストーリー~

いくらタップ(※格闘技などで相手や床を叩いて負けを認める方法)しても放す気配がない。
息が続かなくなり、意識が朦朧(もうろう)とする中、突然目の前に手が降ってきた。
「殺されるぅぅ!」
と、思いきや、その手は俺の後頭部を抱えてすごい力で引き上げてくれた。
「ぶはぁぁぁ!ゴホッゲホッ!んっはぁ…死ぬかと思った。」
首を手でさすりながら振り返ると、水中に人の形をした影があり、その影はゆっくりと誰もいない浴槽の端へ消えていった。
「何だよ、あれ。」
「あれはこの家の先祖じゃよ。」
「うわっ!あっ!あんたはあの時の!」
いつの間にか真横に部屋で見たじいさんが立ってた。
「お前だけに言っておく。裏山の墓にお参りしにいけ。そうしないと紗耶香と静香に不幸が訪れるじゃろう。あと、あの子らに伝えてくれ。“いつも見守っとる”とな。それじゃあの、頼んだぞ。因みに髭ジィって言えば分かる。」
言いたい事だけ言い、俺がまばたきした瞬間、消えてしまった。
俺は幽霊を信じない。
だからのぼせて夢を見てるんだと思った。