絵里香の話を聞くため、一階と二階をつなぐ階段へ座った。

「なんだ、お前。震えてるじゃないか。」
「別に震えている訳じゃない。それより続きを聞け。」
「はいよ。」
絵里香は寂しそうに話し始めた。
「私は昔、体が弱かったから国立病院によく通っていたんだ。その道は今でも覚えている。私は両親よりも先に家を出て病院へと走った。いつもより長く感じる道を死に物狂いで走り、病院へ駆け込んだ。だが、一足遅かった。泣き崩れる私に看護婦さんは『“強く生きろ”それが彼の最後の言葉です。』そう言って私を抱きしめてくれた。けれど、兄貴が居ない世界など有り得ない。…それからは誰とも口をきかず、一人で孤独と闘っていた。親はいつも仕事で友達もいない。みんな兄貴達を恐れて友達になるのを嫌がっていたんだ。シバと会うまでずっと独りぼっちだった…もう、あんな思いをするのは嫌だ。」
初めて絵里香の涙をみた。
その純粋な涙は月に照らされ宝石のような輝きを放ってた。