驚き勢い良く顔を上げた私は、暗闇の中ヤナギさんと目が合った。

お互いの顔がどうにか見えるぐらいの暗闇の中。

二人の声が聞こえなくなると「ワタナベの事が気になる?」ヤナギさんは口を開いた。

ヤナギさんは私の正面に立っていて、暗闇に慣れた私の目はその表情をはっきりと捉える事が出来る。

怒ってるわけでも、呆れたわけでも、悲しそうなわけでもない。

ヤナギさんはとても優しい表情で私を見ていた。

「気にまりません。」

はっきりとそう答えた私に、ヤナギさんはにっこり微笑む。

その優しい空気に包まれ、私は廊下で言おうとした言葉の続きを口にする。

「私も、ヤナギさんの本当の気持ちが聞きたいです。」

私の思い違いでない事を祈る。

逸らす事なくヤナギさんの目を見て言った。

そんな私に向けられたのは、やっぱり笑顔だった。

一瞬目を伏せたヤナギさんはゆっくりとその瞼を上げ、そして口を開く。