《Side 天音》


風が、少し強くなってきた。

ただ歩いているだけで、髪が舞い上がる。


私は片手で髪を抑え、空を見上げた。


「ごめん、皆。あたし、そろそろ帰らなきゃ…」


「えーまだ3時過ぎじゃん!」


「そうだよ。それに明日も休みなんだし、夜ご飯も食べて帰ろうよ」


「あ、良いねぇ。あたしお好み焼きの気分かも」


3人が、口々に私を引き止める。

私はまだ充分に明るい空を見上げたまま、そっと苦笑した。


優しい友達だと思う、本当に。

強引に誘われたカラオケは、私を気遣ってくれてのことだと判っている。

誘いは強引でも、無理に話を訊き出そうとはしない‥そんな優しい友達。

私から切り出すのを、きっと待ってくれている…。


何度も口は開きかけた。

しかし結局は、言葉にすることができなかった。

何故なら、今の苦しみを告白しても、楽になることはできないと、判りきっていたからだ。

これは、悩みではない。

悩むことさえ叶わない、どうしようもない苦しみ。

何かが変わるわけでもないのに、その苦しみを告白する気にはなれなかった。

いや、もしかすると、単なるプライドの問題だったのかもしれない…。