「天音っち、まだ帰んねぇの?」


そう言われて、私は教室に掛かっている時計を確認した。

時刻は4時半。

特別用事があるわけではないのだが、バンドの練習がないのなら、いつまでも残っていたって仕方がない。


私は書き終わった日誌を手にし、立ち上がった。

そして、空いている手で鞄に手を伸ばした。


「日誌も書き終わったし、もう帰るよ。そうだ、途中まで一緒に行こ?」


「あー、俺はまだ用があるから…」


「え、そうなの?」


「うん。だからここで…」


「判った」

私は笑顔で頷いた。

「それじゃ、また明日ね」


「おう!気をつけて帰れよな」


「うん、ありがと」


私は彗ちゃんの笑顔に見送られ、そのまま教室を後にした。

一度も、振り返ることはしなかった。


だから、気付かなかった。

私の後ろで、彗ちゃんがどんな顔をしていたのかなんて。


どんなことを、想っていたのかなんて…。