「彗ちゃん…?」


「いや、ごめん。何でもねぇから」


謝るだけで、彗ちゃんは私と目を合わせてはくれなかった。


微妙な空気の中で、私は自分の取るべき行動に迷っていた。

これ以上声を掛けるのもどうかと思うし‥そう考えていたところで、カサカサという紙の音が響いてきた。


「?」

私は思わず、彗ちゃんを見上げた。


「時間取らせて悪かったな。けど、助かったよ。おかげで明日までにコピーして、皆に渡せそうだ」


「あ、うん。それなら良かった」


楽譜を重ねている彗ちゃんは、普段と何も変わらなかった。

いや、女装しているときとは勿論違うのだが、いつもいつも騒がしいわけではないし、ふざけていないときはこんな感じだ。


先程の空気が嘘のように、彗ちゃんは普段通りの態度で、私の前に存在していた。