「ちぇーっ、何だよつまんねぇ」

彗ちゃんは、意外にもあっさりと朱月の腕を離した。


「けど、打ち上げには賛成です。せっかくだからしませんか?明日、学校ないですし。姉さんも賛成だよね?」


「え?それは勿論…」

私は、とっさに朱月の様子を窺った。

「でも朱月‥参加できるの?」


勇気を出して尋ねたというのに、朱月はそんな私の気持ちなど全く判っていないような表情を見せた。


「今日は、無いの?用事…」


「あぁ」


微かに芽生えた怒りを押し殺すようにして問えば、漸く腑に落ちたようだった。


「今回、ライブの出番が遅かっただろ?だから約束は入れてねぇよ」


「そうなんだ…」


笑って話す朱月を見て、私は安堵すると同時に、自分が嬉しいという感情を抱いていることに気付いた。

朱月が残念がっていないことに安堵を、そして打ち上げに参加するということに喜びを、感じずにはいられなかった。


「それなら、私の家に皆を招待しよっかなぁ。で、天音は泊まっていってよね」


「え、いいの?」


「勿論だよぉ」

星は微笑んだ。


「おーいいじゃん!神楽ちゃんの家ってデカイんだろ?俺、行ってみてぇ!な、瞬輝、お前も行くだろ?」


「‥はぁ‥今日は延長お守り…」


「おい、何か言ったか?瞬輝」


「‥行くなら早く準備しないといけないか」


彗ちゃんの怒りを手馴れたようにかわした瞬輝くんは、いち早く舞台裏へと消えていった。


「ちっ、あいつ逃げやがった」


「おい、本当に行く気があんなら、お前も急いで準備しろよ。女装してる彗が一番時間かかんだろ?」


朱月に背中を押された彗ちゃんは、まじまじと朱月を見つめ、それから不思議そうに首を傾げた。


「な、なんだよ…?」


直感的に嫌な予感がしたのだろう。

朱月はどもりながら、彗ちゃんに言葉を向けた。


「俺、時間かかんねぇよ?だってこのまま行くつもりだし。んじゃ、俺は荷物取ってくんな♪」

そう言うと、彗ちゃんは言い逃げをするかのように駆けていった。