朱月(シュヅキ)と出逢ったのは、小学3年生の春だった。


始業式を待つことなく完全に散ってしまった桜の花の代わりに、青々とした若葉に見守られ、朱月は3年2組の教室で、転入生として紹介された。


「これから一緒に勉強していくことになった柳(ヤナギ)朱月くんです。まぁ、朱月くんに関わらず、クラス替えで周りは新しい友達ばかりだと思います。だから皆、仲良くするようにね」


「「はーい!」」


まだ幼さの残る明るい大きな返事が、教室内を支配する。

その返事を聞いて、新しく担任になった若い女の先生は、満足そうに微笑んだ。


そんな中で、私はジッと、朱月を見続けていた。

色素薄い髪が陽に透けてキラキラ輝いていて、見事なまでに黒髪の私は、それにとても惹かれてしまう。

とても綺麗な男の子だと思った。

けれどそれ以上に、とても寂しそうな男の子だと思った。

くっきりとした大きな瞳は、人の目を引くけれど、その瞳には輝きがなかった。

私は、それがとても気になった。

何故なら、その目は2年前の‥父が家を出て行った直後の、母の目と似すぎていたから…。


朱月は、クラスメイトの誰よりも大人びていた。

それは外見がと言うより、雰囲気が‥だ。

はしゃぐことのないその物静かな雰囲気が、朱月を大人びて見せていた。

3年生という幼い子どもでも、それを敏感に感じ取ったのだろう。

新学期が始まって1週間経っても、誰1人として、自分から朱月に声を掛けようとするクラスメイトはいなかった。

気にはなっているようだが、いつまで経ってもその好奇心が、声を掛けるまでの勇気に繋がることはなかった。



「ねぇ、何見てるの?」


ある日の放課後、忘れていた宿題のプリントを取りに教室へと戻って来た私は、誰も居ないはずの教室で窓の外を眺めている朱月を見つけ、思わず声を掛けた。

今までに、朱月を目で追うことは多々あったが、それでも、声を掛けたのはこれが初めてだった。