「え?」


「俺さ、友達とバンドやることになったんだけど、作った曲に歌詞書いてくんねぇ?」


「はっ!?む、無理だよ!」


「頼むよ。俺、曲は作れんだけど、歌詞はダメなんだ。あとボーカルも捜さなきゃなんなくて困ってんだよ。頼む!」


目の前で頭を下げてくる朱月を、ただ唖然と見つめた。

歌詞を書けなんて頼んでくることに驚いたのは当然だが、それ以上に私は朱月自身に驚いていた。

あの頃の朱月はこんな人懐っこい雰囲気なんて持っていなかった。

どちらかと言えば、他人を寄せ付けないオーラを纏っていたはず。


「‥判った。できる範囲で協力する」


「マジ!?ありがとな、助かるよ。ちなみにボーカルは女の子を入れる予定だから、誰か良い子いたら紹介よろしくな」

朱月はそう言って、嬉しそうに笑った。


初めて見る笑顔。

私の知らない朱月が、そこに居た。


時間はこんなにも人を変えるのかと、そう思った。


しかし、このときの私は、まだ何も判っていなかった。

変わった朱月のことを‥何も…。