《Side 天音》


「天音、ちょっといいか?」


登校してすぐに、私は朱月に呼び止められ、驚いた。

朱月と顔を合わせるのは、あの夜以来だ。

日にちにして1週間ほどだが、とても久しぶりな感覚がする。


私は極力朱月を目で追わないように注意し、声を掛けないようにしていた。

そんな私を、星は何か言いたげに見ていたが、彼女は何も訊かずに、いつも通り接してくれていた。

それが私には、大きな救いだった。


バンドの練習にも参加しなくなった朱月との接点は、皆無に等しかった。

だからこそ、もう声を掛けられることはないかもしれないと、そう覚悟していた。

それなのに今、朱月は私の前に立ち、私を見ている。

嬉しさよりは、戸惑いの方が大きかった。


「な、何?」


「皆をいつもの場所に、連れて来てほしい」


「いつもの場所って‥バンド練習してるとこ?でも、今日は練習する日じゃ…」


「だから、頼んでんだよ。俺が呼んでも、集まんねぇだろ。最近練習に出てねぇからな」


そう呟く朱月は、何処か悲しげな表情を含ませていて、それを見てしまった私は、何も言えなくなってしまった。