《Side 朱月》


カチッ


ガチャッ


玄関の鍵が外され、ドアの開く音が響いた。

幸矢さんが、帰って来たのだ。


俺は幸矢さんの登場を待ちながら、大きく息を吐き出した。

それは、心を落ち着かせるのと同時に、覚悟を決めるためのものでもあった。


突然明るくなった部屋に、自然と目を細めてしまう。

だが、動いたのはそれだけだ。


「ただいまーって、わっ!朱月居たのか?電気点いてないから、てっきり部屋に居るのかと‥どうかした?」


背を向けたままの俺に、幸矢さんは優しく言葉を掛けてくれる。

それだけでも、幸矢さんの優しさを、痛いほどに感じた。


「幸矢さん、ちょっと話がある」


「‥話?」

幸矢さんは、小さい声で呟いた。

「改まってそう言うってことは、真面目に聴かないといけない話ってことかな?」


「できれば…」


「そっか」


幸矢さんは、スーツも脱がずに俺の向かい側のソファーに腰掛けた。