《Side 天音》


「やばっ!お母さんに怒られるよぉ」


門限の時刻は、とうの昔に過ぎている。

急いで帰っても、間違いなく怒られるだろう。

しかし、今日は遊んでいたわけではなく、友達の相談にのっていたのだから、仕方がない。

そう頭の中で言い訳をしつつも、それが母を納得させる充分な理由にならないことは判っていた。

出迎える母の姿を想像すると、足が重くなる。

それでも、私は覚悟を決め、急いで自宅を目指した。


「え‥誰か居る?」


走っていた私は、自宅前に人影を見つけ、立ち止まった。

日が落ちた住宅地は電灯の光くらいしかないため暗く、立っている人物の顔が見えない。


「変な人とかじゃ‥ないよねぇ?」


不安になりながらも、ゆっくりと足を進めた。


「朱月…?」


小さな声でそう呼び掛けると、その人物はゆっくり顔を上げた。

自信はなかったが、やはり朱月だった。