「ちゃんと有りますよ、テーブルに」

見かねた響が、呆れ顔で呟いた。

「目の前に有るのに騒がないでくださいね、彗先輩」


「あ…」

彗ちゃんはテーブルの上に取り残されている楽譜を手に取り、鋭い目つきで瞬輝くんを睨んだ。

「てめぇ‥騙したな?」


「気付かないお前がどうかしてる」


「なんだと!?今度からお前のこと、ヒグマって呼ぶぞ!?」


「馬鹿が‥俺の名前は日暮(ヒグラシ)だ」


「‥っ!判ってるに決まってんだろ!馬鹿ってゆーなっ!!」


「はいはい、そこまで」


本格的な言い合いになる一歩手前で、漸く朱月は止めに入った。

本番前に喧嘩になるのでは…?という私の心配は、どうやら杞憂に終わったらしい。


「お前らには緊張感ってものがねぇのかよ?ほら、もう時間ねぇからステージの方に行くぞ」

そう言って、朱月は私に目を向けた。

「天音、俺達は行くから、また後で」


「うん、判った。皆、頑張ってね」

ステージに向かう朱月達を、私は笑顔で見送った。