「あの…これって大切な手紙ですか?」

パソコンを見つめている俺に向かって、背後から桃香の声が聞こえてきた

「あ?」

俺が振り返ると、桃香が一通の手紙を俺の前に差し出してきた

「掃除をしようと思って、ベッドを動かしたら出てきたんです」

「ベッドを動かした?」

俺は眉間に皺を寄せる

俺の目は桃香の細い腕を見つめた

か弱そうな身体から、どこにそんな力があるというのか?

俺は懐かしい手紙を指に挟むとじっと眺めた

『大好きよ、勇人』

手紙の主の声が、俺の脳裏で甦った

懐かしい声

愛おしくて、恋しい声だった

時がたち
陽にやけて、手紙はずいぶんと色あせてしまった

「大切な人だったんですね」

桃香の声に、俺ははっと現実に戻った

「くだらねえ」

俺は机の上に、手紙を置くとパソコンに目を戻した

「勇人さんが物を見て、微笑むなんて珍しいことじゃないですか」

桃香がにこにこと嬉しそうに笑っていた

「掃除は終わったのかよ!」

俺はつい怒鳴ってしまった

しまった!

怒っているわけじゃないんだが……

桃香は「あ」と小さい声で呟くと、部屋を出て行った

机の端に目をやると、アイスコーヒーとクッキーが置いてあった

そういえば
朝から甘い匂いがしていると思ったら、桃香が焼いてくれたのだろうか?

あの人もクッキーが好きだった