姉さんは部屋には入らず、そのままキッチンに向かった。

蛇口をひねる音が聞こえ、流し台のステンレスを勢いよく水が打つ。

姉さんは部屋に戻ってくると、グラスに挿した切り花を窓枠の隅に置いた。


「あんまり綺麗だったから摘んできたの」


名前のわからない花だったが、いつも当たり前のように目にしていたような気がする。

淡紅色の花弁が大きく開いてはいるものの、いかにも繊細で弱々しい感じがした。

どうせ明日の朝には萎れているのだろう。


「芙蓉の花は、枯れたあとも綺麗なのよ」

と姉さんが言った。


言葉を発しなくても、姉さんは僕がなにを考えているのか大よそ理解している。

時々なにもかも見透かされているような気がして、ぞっとすることもある。

単に姉さんの勘が鋭いだけなのか、あるいは姉弟とは元来そういうものなのか、僕にはよくわからない。


「オゥ、ウィ……」

僕は一応うれしそうな声を出しておいた。


エマが芙蓉の一輪挿しに鼻を近づけて、くんくんと匂いを嗅いでいる。