買いもの袋を提げた姉さんが窓の前を横切る。

姉さんは窓越しに僕をちらりと見やり、薄く微笑んだ。


僕がこの家に一人で暮らすようになったのは、姉さんが結婚してからのことだ。

姉さんはここから少し坂を上ったところに夫と二人で住んでいて、自力ではほとんど日常生活を送ることのできない僕の世話をするために、毎日二回、日によっては一回この家に通っている。

両親は早くに他界していたので、僕の世話をする人間はこの世に姉さん一人しかいない。


「彼女、来たわね。今日はいつもよりちょっと早かった」

とエマが言った。


玄関のドアが開く音が聞こえ、姉さんが何やら僕に話しかけている。

ここからではうまく聞き取れないが、「元気?」だとか、「大丈夫?」だとか、おそらくそういう他愛ないことだろう。


スリッパの音と、買いもの袋の擦れる音とが段々と近づき、やがて部屋のドアが開いた。


「今日もずっと特等席にいたの?」

と姉さんが言う。


特等席というのは、僕のいるこの窓辺のことだ。

エマを連れて散歩に出かけるため、僕は日がな一日ここに座って窓から海岸を眺めている。

そんな毎日を繰り返しているうちに、姉さんが特等席と言い出した。


「オゥン……」

そうだ、と僕は答えた。