生まれて六度目の春に僕の運命は決定した。

暴走したタンクローリーがガードレールを突き破り、僕はサッカーボールのようにはね飛ばされた。

海側のフェンスを越え、四メートル下の地面に激突するまでのあいだ、僕の視界には青いものが映っていた。

それが空の青なのか海の青なのかは、今でもよくわからない。


その事故で僕は頚椎を損傷し、四肢麻痺という特大のハンディキャップを背負うことになった。

手も足もろくに動かせず、言葉も話せず、咀嚼することもできない。

ようするに、一人で生活できない人間に生まれ変わったということだ。


居眠りしていた運転手は怪我ひとつなかったというが、彼も一生足かせをはめられることになった。

もちろん、僕は加害者を憎んだ。

死ぬほど憎んだし、死ぬまで恨みつづけるだろう。

どうしてひと思いに殺してくれなかったのかと。


ここから窓越しに見下ろすあの海は、僕にとって絶望そのものだ。

そんなに美しいものが、どうしてこの僕の目の前に広がっているのかと思うと、腹が立って仕方がない。

結局、僕はあの海で一度も泳いだことがなかった。


窓際にエマと並んで、見るともなしに窓の外を眺める。

ほの暗い鈍色の空に、薄っすらと白い月が見えた。

水平線は不明瞭で、じっと眺めていると本当にそこに海があるのかどうかわからなくなってくる。


しばらくすると、車が砂利を削る音が聞こえた。


エマが僕に目で合図を送る。


姉さんの車だ。