誰にだって理想の恋人像というものがあるのだろう。

僕にとってはエマがそれだ。


僕は強く願った。

エマのような人にそばにいてもらいたいと、ひたすら強く願いつづけた。

そしてある日、エマは実体を持って僕の前に現れた。


その日はちょうど姉さんの結婚式があったのでよく覚えている。

行きたくもない結婚式に無理やり同席させられ、へとへとになって部屋に帰り着き、僕はいつものように窓辺に座って外を眺めていた。


日が出ているうちは窓越しに海を見下ろせるのだが、夜になるとそこにはただのっぺりとした黒い闇が広がっているだけだ。

近くにある街路灯の周りだけ、木立の輪郭がぼんやりと浮かんでいる。

僕は冬の夜空を見上げ、何とはなしに北斗七星を探してみた。

さして雲が出ているわけでもないのに、その日にかぎっては一向に見つけることができなかった。

どれが北極星なのかも判然としない。

きっと、ひどく疲れていたせいだろうと思う。


疲れているにもかかわらず、目が冴えて眠れそうもなかったので、僕はいつもの妄想にふけることにした。

その時の僕には、空想上の恋人と戯れることくらいしか気を紛らわせる手段がなかったのだ。笑うなら笑えばいい。


だけど、その日はなかなか空想の世界に入りこむことができなかった。

何かがいつもと違うような気がして、妙に落ち着かない気分だった。

しばらくして、その違和感の正体に気がついた時、心臓が止まりそうになった。

部屋の中には僕しかいないはずなのに、窓ガラスに人影が映りこんでいるのだ。