初対面、ではないかもしれないけれど、その物言いは少しムッと来た。
ちょっと、失礼じゃないか! と言おうと口を開きかけたそのとき、目の前の知らない男があっ! と時計を見ながら大きな声を上げた。
その人ごみの中でも良く通る声は、周囲の視線を集め、必然的にあたしにも注目が集まる。

あまり、人の視線は得意でないんだけど。

「やべっ、間に合わねぇ! 園田はここに通ってんだよな? ならまたな」

そりゃ、大学の敷地内に居れば通っている可能性のほうが高いだろうと、内心お前はどこの誰だ、と問いかけながら一度だけ頷いたら、それだけで満足したようで、自転車に跨ると身体を捻り、手を振って見えなくなった。

「一体、なに」

話しかけられてから、消えていくまであっという間だった。
風のようにあたしの髪を掻き混ぜていくような、そんな感じ。

首を傾げて、はっとする。
さっきの男の名残か、まだ少なくない視線が刺さる。

あたしに戸惑いと恥ずかしさを残して、去って行った男を振り払うように歩を進め、イヤホンをはめ直した。