歯磨き粉が落ちるギリギリの所でなんとか間に合った。
うがいをしてると、鏡に誰かが写った。
誰かはよくわからないけど、差し出されたタオルで葵だと気づいた。


『……ありがと』


ぶっきらぼうな言い方しか出来ない自分が、やけに子供じみてて情けない。
そういえば、さっきは居なかったのに、どこいってたんだろ?気になるものの、聞き出せないのは俺が葵に壁を作ってるから。
それと、くだらない意地。


リビングに戻る間、葵とは一言も言葉を交わさなかった。
なのに、なんかこの沈黙が懐かしい。


『行くの?』


リビングに戻ると兄貴が会社に行く身支度を始めてた。


「ああ、遅刻は出来ないからな。
あ、さっきの話しだけど」


『話し方が変ってヤツ?』


「そう、俺はお前とは違って大人だから、執事にも丁寧な言い回しが出来るんだよ!」


『普通大人って自分から大人です!!って言わなくない?それに大人かどうかは、自分が決めるんじゃなくて、周りが勝手に決めんだよ。
相手が大人だって言ったら大人だし、子供だって言われたらまだ子供。
 まあ、俺は大人なんかになりたくないけどね。』


ダイニングテーブルの椅子に腰掛け、頬杖を付き話しを聞いてるのかわからない兄貴にそう返した。