俺は立ち上がり、窓際に寄せられたベッドまで歩いた。
それを見た騎馬は、「おやすみなさいませ」と言い電気を消し部屋を出ていった。
真っ暗な部屋の中、布団に潜り込み目を閉じた。
忘れかけてたのに…
本当は忘れようとしてたんだけど。


『はあ…』


陸様、か…もう「ちぃちゃん」って呼ばねえのかな？って、呼ぶわけねぇよな。
寝返りをうち、目を開けた。


『ん…眠れねぇ』


窓から差し込む月明かりが、真っ黒な布団を薄く照らし出す。
その光を見つめながら、色んな事を考え、思い出してた。




「ちぃちゃん」


俺を呼ぶ葵の声。


『ん？』


いつもと変わらず、家の前で葵と別れた。


「またね!」


口癖のように出る葵の言葉に、返事をする。


『おう、また明日な。』


本当に明日会えると信じてた。


「ばいばい」


笑顔で手を振る葵が家に入ってくのを、いつも俺は見送ってた。
毎日毎日、飽きることなく。


『葵…？』


大きめのトランクを引きながら、葵が家から出てくるのが見えた。


『どこ行くんだよ!』


声を掛けても葵は何も言わず、俺から離れていった。
葵を追いかけようとしたけと足が動かなかった。