玄関で扉を開けるのを戸惑ってると、騎馬が小さく「大丈夫です」と言った。
その言葉に頷き、扉を開けた。


『ただいま。』


俺は深く深呼吸したあと、何も無かったように家に入った。
歩く度、呼吸する度に痛む腹を隠し、汚れたコートを騎馬に隠してもらった。


「おかえりなさいませ。一緒だったんですか?」


葵は目を丸くして俺と騎馬を見た。


『ああ…─』


「先程バッタリ。」


俺の声を遮り、笑顔でそう説明をした。
葵は小さく頷きながら、俺の顔をジッと見て自分の口元を指差し


「ここどうしたんですか?」


『ん?』


「血が出てます。」


冷静に言う葵は、俺の言葉を待ってるらしかった。


『血?…本当だ。』


親指で傷に触れ、今初めて気づいた風を装った。


「すぐ消毒しないと!!」


薬箱を取りに行こうとする葵を呼び止め、『大丈夫!! 唾つけときゃ治るって。 それよりさぁ、腹へった』


お腹をさすり、リビングに向かった。
本当は腹なんか減ってないんだけど、葵に心配掛けたくなくて嘘をついた。