僕の執事


『電車来たぞ』


それから10分後、駅のホームに電車が来た。
葵から返事が来るのを期待してみたけど、無言で立ち上がった葵は、手を引く俺の後ろを黙ってついてくるだけだった。
 ─電車内は少し混んでるけど、二人が座れるスペースは充分にあった。
入り口から少し離れた場所に、腰を下ろした。
あとどのくらいこのままなんだろ…?
ゆっくり線路の上を走る音が小さく響いた。
窓の外に見える景色は、高層ビルだらけで…
本当だったら今頃、行く予定の動物園の話で盛り上がってたんだろうな…。


『ハァ…』


またため息がもれた。
ため息つくと幸せが逃げるとかって本当なのかな?


「…嫌…っ」


ボーっと吊革を眺めてると、隣からボソッと声が聞こえ、見ると俯いたまま何も言わない葵の横顔があった。
少しだけ葵の言葉を待ってみたけど、その呟きの後は何も言わなかった。


『………。』


いきなり繋いでた手にギュッと力が入った。
何を考えて不安になってんのか知んないけど、今俺に出来るのは葵の手を握り返すことだけ。
騒がしいはずなのに、不思議なほど静かだった。
電車の中に二人しかいないような…変な感覚。
でも、なんだかそれが不思議と心地よかった。